楽園の炎
「朱夏様。どうなさったんです? 早いじゃないですか」

朝、部屋から顔を出した朱夏に、朝餉の用意をしていた桂枝とアルが、同じように驚いて声を上げた。

すでに日は昇っている。
炎駒もすでに朝餉の席についているし、そんな驚かれるほど早いわけではない。

が、ここ数日、部屋に閉じこもっていたり、それが治ったらひたすら寝てみたり、不規則な生活になっていたので、ちゃんとした時間に起きたのは、久しぶりなのだ。

アルが慌てて水盆を用意してくれる。
朱夏は一旦部屋に引っ込み、顔を洗った。
着替えを済ませ、炎駒と朝餉の席に着く。

「おはようございます。父上」

「おはよう。ようやく体調が戻ったようだな」

挨拶を交わし、皿に盛られたフルーツに手を伸ばす。

朝はいつも、バナナに伸びる手が、ふと隣のマンゴーに移った。
夕星と初めて会ったときのことを思い出し、自然と笑みがこぼれる。

もし夕星が処刑されていたら、マンゴーを見るたびに、悲しくなっていたかもしれない。
しみじみと、夕星が生きていることに感謝しつつ、朱夏は幸せを噛みしめた。
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