楽園の炎
葵が笑いながら、朱夏につり上げられている少年兵に言う。
その場にいた者は、全て跪いて頭を下げているが、朱夏に羽交い締めにされて、爪先しか地面についていない状態の少年は、頭を下げることもできない。
そんな状態で、この上なく高貴な人に話しかけられ、少年は魚のように口をぱくぱくさせるばかりだ。

「ほら、降参?」

後ろから朱夏が、面白そうに言う。
少年兵は、少し悔しそうな顔をしたが、すぐにこくりと頷いた。
すぐに朱夏は戒めを解き、自分もぱっと跪く。

「ほぉ。結構な兵士の数だな。年若な者も随分いるようだが、兵役は義務なのか?」

葵の後ろから、夕星が稽古場を見渡しながら言う。
皆の空気が、ぴんと張り詰めた。

兵士らは、葵でさえ稽古中以外は、口も利けないような存在なのだ。
その上を行く宗主国の皇子など、滅多にお目にもかかれない。
皆、一様に緊張を隠せないようだ。

「そういうわけではありませんが、兵士に身分は関係ありませんので、希望する者は多いですね」

葵の説明に、夕星は、ふぅん、と呟いて、羽織っていた外套を取った。
腰に差した剣も抜き、外套と一緒に放り出す。
付き従っていた桂枝が、慌ててそれらを受け止めた。

「誰か、お相手願おうか」

言いながら夕星は、立てかけてある稽古用の剣を取った。
皆、意外な申し出に顔を上げ、困惑を浮かべてお互いの顔を窺っている。

そういえば、ユウの剣の腕は、どの程度のものなのだろう、と、朱夏は少し心配になる。
自分が相手をしようかとも思うが、多分朱夏自身、夕星が相手だと、緊張して相手にならないだろう。
そんなところを、他の兵士らに見られたくない、とも思う。
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