楽園の炎
「失礼ですが、いかな宗主国の皇子様であろうとも、一旦稽古に入ってしまいますと、身分の上下は関係なく平等、というのが決まりであります。遠慮無く打ち込ませていただきますが、その辺りはご了承いただけますのか?」

兵士を束ねる隊長が、口を開いた。
夕星は、当たり前のことのように、軽く頷く。

「もちろん。遠慮など、されても困る。稽古で相手に遠慮するのは、最大の侮辱ではないかね?」

「・・・・・・その通りです。では」

立ち上がった隊長に、皆がさっと両脇に退く。
稽古場の中央に進もうとした隊長は、ふと夕星を振り返った。

「皇子様は、腕に自信がおありですか?」

強ければ問題ないが、弱いのなら、それに見合った腕の相手と対戦したほうがいい。
隊長だって、それなりの腕だ。
相手にならない可能性だってある。

「どうかなぁ。ここ数年、剣の稽古なんて、まともにやってないし。稽古というか、もっぱら実戦だったしなぁ」

軽く剣を振りながら、感触を確かめる夕星の言葉に、隊長は難しい顔になる。
まともに稽古をしなかったら腕は落ちるが、実戦経験というのが気になる。

考える隊長に、葵が歩み寄った。
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