楽園の炎
「うもー。折角気を利かせてあげたのに~。こんな頭のときにユウに会ったら、どうしてくれるのよ~」

ぶーぶー言いながら手で頭を押さえる朱夏に、憂杏は憮然と鼻を鳴らした。
そして、ふと前方を見、にやりと笑う。

「いらん世話だ。ほら、そんなことするから、天罰だぜ」

「?」

頭を押さえたまま、朱夏が憂杏の視線を追うと、前から夕星が歩いてくる。
慌てて朱夏は、必死で頭を整えた。

「あれ、憂杏。やっぱりナスルの見舞いに行ったんだな。桂枝殿は、帰ったと言ってたけど」

「母上にバレたら、また鬼の形相で追いかけてくるだろうな。・・・・・・ユウ、ちょっと、いいか?」

憂杏はそう言って、庭にある四阿(あずまや)を指した。
きょとんとする朱夏も促して、憂杏は庭に降りる。
三人は、四阿に入った。

「ナスル姫は、ククルカン皇帝に溺愛されてるって話は、本当か?」

憂杏も、あまり遠回しな物言いはしない。
いきなりの問いに、夕星は僅かに首を傾げたが、すぐに頷く。

「ああ。父上の可愛がりようは、半端ないぞ。あれじゃ嫁に行けるかって、よく思った。姉上のことも可愛がっていたがね。ナスルは一番下だし、愛しさもひとしおなんだと思う」

夕星の答えに、憂杏は考え込んだ。
朱夏はそんな憂杏をじっと見、もしやナスル姫をもらい受けたいと思っているのかと、夕星の顔を窺う。
だが夕星は、それほど楽観的ではないようだ。
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