楽園の炎
「それで? それとナスル姫と、どう関係があると思ってるんだ」

「アリンダは、俺のことを一番に憎んでいるが、ナスルだって例外じゃないってことだ」

朱夏は息を呑む。
朱夏はどうしても、夕星を中心に考えてしまうから、アリンダの話を聞いたときも、ナスル姫にまで考えが及ばなかった。

だが考えてみれば、ナスル姫も夕星と同じく、アリンダの母親が世話をしていたのだから、憎まれてもおかしくない。

「でもさ、ナスル姫様は、その第二皇子の母君に、そんなに大事にされてたわけじゃないんでしょ? どっちかっていうと、ククルカン皇帝や王妃様のほうが、ナスル姫様を可愛がってたって聞いたよ?」

「アリンダは、俺に関わる者全てが気に入らないという奴だ。俺とナスルは、母親がいないこともあって、それなりに仲が良かった。何よりナスルは、小さかったからな。不穏な空気の宮殿の中で、俺なりに守ってやらにゃ、と思ってたし」

「そのお前の思いが強ければ強い程、お前を苦しめるためにナスル姫を使うのは、有効になるということか」

苦虫を噛みつぶしたように言う憂杏に、朱夏はぞっとした。
一体、アリンダというのは、どんな男なのだ。

「小さい頃から、些細な嫌がらせは度々あった。転ばされたり、小石を投げられたりするぐらいなら、まだ可愛いもんだが。メイズ殿が亡くなってから、アリンダの行動は、最早嫌がらせどころの騒ぎではなくなった。俺に対してはもちろん、ナスルに対してもな。ナスルをいきなり馬に乗せて、馬の尻に短剣を突き立てたこともある。馬など乗ったこともない上に、まだ幼い頃だ。手綱なんか、ついていても操れないさ」
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