楽園の炎
第十七章
日がだいぶ傾いてから宝瓶宮に帰った朱夏は、すでに居間の椅子に座っている炎駒の姿を見た。

「どうしたの、父上。早いじゃないですか」

ああ、と返事をし、読んでいた書類を机の上に置いた炎駒は、お茶の入ったカップを取った。
その独特の香りに、朱夏は部屋の中を見渡した。
炎駒のお茶は、アルが淹れたようだ。

アルは薬草の知識があるので、いつもお茶を出す際、体調に合わせて、独自にお茶の葉を調合する。
だが基本的に、朱夏以外の人には、特に頼まれないと調合したお茶は出さない。
炎駒のお茶は、いつも桂枝が淹れているのに、珍しいなと思っていると、桂枝の姿が見えない。

「父上、お疲れなのですか?」

桂枝がいないから、代わりにお茶を用意するアルに薬茶を頼んだようだ。
朱夏は炎駒の前に座りながら尋ねた。

「アルの薬茶を飲むなんて、珍しいじゃないですか」

「ああ。でもたまにはこういうのも、飲んだほうがいいのかもな。薬茶のわりに、なかなか美味い。上手な調合だ」

朱夏のお茶を運んできたアルが、恐縮して頭を下げる。
朱夏は、ひょい、とアルからカップを受け取り、くん、と匂いを嗅いだ。

「あ、またお腹の薬でしょ」

「朱夏様は、お元気になられてからは、特に薬草を入れる必要もありませんけどね。今は一応、しばらく食べてなかったので、お腹の負担を和らげる薬茶が良いのですよ」
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