楽園の炎
「良かったわ。憂杏がその気になれば、その辺の賊だって、簡単には近づけないもの」

嬉しそうに言う朱夏だが、桂枝の表情は晴れない。

「桂枝は、反対なの? ナスル姫のこと、気に入らない?」

朱夏の言葉に、桂枝は強く首を振った。

「とんでもない。あのようにお可愛らしい姫君に想われるなど、わたくしにとっても身に余る光栄です。・・・・・・ですが、やはり憂杏は、商人ですから・・・・・・」

「大丈夫よぅ。初めっからその状態で知り合ったんだし、そんなことはナスル姫だって、百も承知よ」

「姫様はそうであっても、ククルカンの皇族の方々が、承知するはずないのでは?」

朱夏はちょっと考えた。
その辺のところは、夕星もわからないと言っていた。

「そうね・・・・・・。でも、皇太子殿下は大丈夫だと思う。何となくだけど、ユウと似た感じだし、わかってくださりそう」

「皇太子殿下がそうだったとしても、皇帝陛下はどうでしょう。ああ、やはり無理にでも仕官さえておけば・・・・・・。それに、あのようにか弱そうなお姫様を、うちに迎えて大丈夫でしょうか。市井の生活など、生粋のお姫様にできるでしょうか」

朱夏は手を伸ばして、湯に浮かんでいる花びらを弄んだ。
朱夏も一応、貴族の姫君だ。
もし自分が憂杏と結婚することになったらどうだろう。

しばらく考えを巡らせてみる。
< 296 / 811 >

この作品をシェア

pagetop