楽園の炎
「ねぇアル。こういうこと、お姫様にできると思う?」

朱夏の衣を運んでいたアルは、いきなりの質問に、きょとんとする。

「? 主人のお世話ですか? 人によるでしょうね」

「主人っていうか、自分のことは自分でするっていうか。あ、それと、旦那さん? のお世話とか・・・・・・」

「できるでしょう。本人のやる気さえあれば。いきなりはきついかもしれませんが」

さらっと言う。

ま、アルは侍女に傅(かしず)かれた生活を知らないから、自分のことを自分でするなんてこと、当たり前なんだろうけど、と思っていたが、アルはちょっと興味深そうに続けた。

「結構、どんなかたでも環境に順応できるものですよ。わたくしは、こちらに来る前は、昔にお話したとおり、いろんなところを転々としていたものですから、いろんな人を見てきました。わたくしのように売られてきた娘の中には、それこそどこぞのお姫様もいましたもの。家が没落したり、攫われてきたりしてね」

「そういうもの? 自分で何一つできなかったお姫様が、きちんと何でもこなせるようになれるもの?」

朱夏の問いに、アルは明るく笑った。

「そりゃ、同じ人間ですもの。学習能力があれば、何でもできるようになりますわよ。朱夏様だって、わたくしや桂枝様がお世話をするからしないだけで、お湯からあがったら布で身体を拭いて、衣を出して着るぐらい、一人でできますでしょ? 森で水浴びした後は、一人でちゃんとしてらっしゃるじゃないですか。裸で帰ってらっしゃったことなど、ありませんわ」
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