楽園の炎
「ナスル姫の様子とか、皇太子殿下の様子を、ユウに聞こうと思って」

やっと桂枝は、ああ、と納得したように頷いた。

「なるほど、そうでしたか。・・・・・・そうですわね。あんまり、人に聞かれるとまずい話ですものね」

桂枝も気になることらしく、よろしくお願いしますわ、と微笑んだ。
そこに、アルが活けてあった花を一輪手に、戻ってきた。

「さ、では朱夏様。これにしましょう」

「え、何?」

そろそろ行かないと、きっとすでに月はあの尖塔にかかっている。
朱夏はちょっと忙しそうに振り向いた。

「ああ、そのままでいいですよ。髪にこれを挿すだけですから」

「?」

首の後ろで緩く束ねた髪に、先程の花を挿し、アルはにこりと笑って頭を下げた。

「では、行ってらっしゃいませ。炎駒様がお帰りになられたら、上手い具合に誤魔化しておきますから、ご安心を」

「お願いね」

花のことは深く考えず、朱夏は静かに扉を開けると、警備の者に見つからないように、廊下を走っていった。
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