楽園の炎
指定された四阿(あずまや)の前まで来ると、すでに来ていた夕星が、軽く手を挙げた。
何だかちょと嬉しくなり、朱夏は小走りに四阿に飛び込んだ。

「ごめんね。ちょっと遅れちゃった」

「構わんさ」

飛び込んできた朱夏を抱き留めるように手を取って、夕星は朱夏を自分の横に座らせた。

「ね、どうだったの? あの後皇太子様と一緒に、ナスル姫様のところに行ったの? 何て言ってた? そうそう、その前にナスル姫様のところに、憂杏と桂枝が行ってたんでしょ? ナスル姫様の様子はどうだった?」

矢継ぎ早に問う朱夏に、ちょっと夕星は眉を顰めた。

「落ち着けよ。ったく、折角久しぶりに二人っきりになったってのに、色気もクソもねーな」

久しぶり、というほどでもないし、そういう夕星の言い方も、俗っぽすぎて色気はない。
が、言うほど気にせず、夕星は椅子の背もたれに身体を預けて、星を見上げた。

「う~ん、まぁ、なんつーか・・・・・・。良い方向・・・・・・といえるのかな。兄上はともかく、ナスルは憂杏と、きちんと話したようだ。喜んでたよ。『憂杏がわたくしを守りたいと言ってくれるのは、恋の入り口ですわっ』だとよ」

「あはは。そっか。でも、そうかも。守りたいなんて、そうそう思わないもの」

「そうだな」

言いながら、夕星の手が朱夏の肩に回る。

「俺も、守りたいと思ったのは、朱夏が初めてだ」
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