楽園の炎
少し身体を傾けた夕星の、漆黒の瞳が、真っ直ぐに朱夏を見つめる。
朱夏の鼓動が跳ね上がった。
知らず、身体も強張る。

少し、朱夏の肩に回された夕星の手に力が入ったと思った瞬間、思わず朱夏は声を上げた。

「ああ、あの。えっと、あわわ・・・・・・。こ、皇太子殿下は、何て?」

心なしか、ちょっと近づいていたように思う夕星の顔が、朱夏の目の前で、僅かにしかめられた。
が、その距離のまま、夕星は短く答える。

「兄上は、まだ憂杏を知らないからな。ナスルの喜びように、ご自分も嬉しそうにしていただけだ」

「ゆ、憂杏を見たら、どう思われるかしらね」

「驚くだろうな」

「ゆ、ユウは・・・・・・」

「もう黙れよ」

甘やかな雰囲気を避けるように、無理矢理言葉を繋いでいた朱夏を、夕星は業を煮やしたように、ぐい、と抱きしめた。
びく、と一瞬だけ身体が硬くなったが、朱夏はそろそろと、夕星の背中に腕を回した。

しばらくそのまま抱き合っていたが、やがて夕星は、少し身体を離して朱夏を見下ろした。
ゆっくりと、朱夏に顔を近づける。

朱夏は夕星の背に回した手を、ぎゅっと握った。
その上で、目を閉じる。
唇に、軽く何かが触れた。

薄く目を開けると、至近距離で夕星が、にっと笑った。
そして、すぐに再び唇を塞がれる。

一回目と違い、深い口付けに、朱夏は慌てた。
こういうことは、初めてなのだ。
漠然と男女の仲を知っている程度で、具体的なことは、実は何一つ知らない。

男に任せておけばいいと言うが、感じたことのない感覚に、自分の身体がおかしくなりそうだ。
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