楽園の炎
聞けば、いい仲になったとはいっても、盛り上がったのは、ほんのひとときだったらしい。
アルは少しの間、滞在しているだけの侍女だし、男のほうも、それがわかっていたからこそ、妙に燃え上がったのかもしれない。
「早い話が、遊ばれたんですわ。当時はわたくしも、己の身分も考えずに突っ走るところもありましたから。相手の男も、うっかり結婚話まで持ち出すものですから、つい」
「最悪だわね。その男、懲らしめてやったの?」
憤然として言う朱夏に、アルはふるふると首を振った。
「まさか。わたくしも、出会ってすぐにそういう仲になった男のことなど、信じなければいいのに、ま、好きだったんでしょうね。わたくしがアルファルドに帰って、それっきりですわ。懲らしめようなど、思いませんね。いい経験と、思えなくもないので」
「遊ばれたのが、いい経験なの?」
思い切り顔をしかめて、朱夏が首を捻る。
アルは少し困ったように笑った。
「う~ん、今になれば、そう思えなくもない、という程度ですけど。いろんなことを、教わりましたし。楽しかったですよ。あの人も、遊びではあったものの、わたくしを大事にしてくれましたしね。でもま、家の者にバレたようで。ちょっと問題になってしまって」
「何でアルとの交際が、家の者にバレたら駄目なの? そんなに大層な家柄の人なの?」
どうしても、そんないい加減な人が、大層な家柄の人間とも思えない。
が、ククルカン皇家にも、アリンダのような皇子がいるのだ。
案外高い位の放蕩息子のほうが、始末が悪いのではないか。
「朱夏様は親しく接してくださるから、忘れてらっしゃるかもしれませんが、わたくしは売られてきた召使いですよ。買い取る人によっては、奴隷のような存在です。それなりの名家の息子であれば、家の者にとっては遊びであっても許せないでしょう。もっとも本当に、奴隷同然の扱いで、わたくしを慰み者にしておれば、返って何も言われなかったかもしれませんが。あの人は、それなりにわたくしを大事にしてくださったと言いましたでしょ。家の者は、危険に思ったのではないですか? 息子が本気で、わたくしと結婚などと言い出したら、厄介ですもの」
アルは少しの間、滞在しているだけの侍女だし、男のほうも、それがわかっていたからこそ、妙に燃え上がったのかもしれない。
「早い話が、遊ばれたんですわ。当時はわたくしも、己の身分も考えずに突っ走るところもありましたから。相手の男も、うっかり結婚話まで持ち出すものですから、つい」
「最悪だわね。その男、懲らしめてやったの?」
憤然として言う朱夏に、アルはふるふると首を振った。
「まさか。わたくしも、出会ってすぐにそういう仲になった男のことなど、信じなければいいのに、ま、好きだったんでしょうね。わたくしがアルファルドに帰って、それっきりですわ。懲らしめようなど、思いませんね。いい経験と、思えなくもないので」
「遊ばれたのが、いい経験なの?」
思い切り顔をしかめて、朱夏が首を捻る。
アルは少し困ったように笑った。
「う~ん、今になれば、そう思えなくもない、という程度ですけど。いろんなことを、教わりましたし。楽しかったですよ。あの人も、遊びではあったものの、わたくしを大事にしてくれましたしね。でもま、家の者にバレたようで。ちょっと問題になってしまって」
「何でアルとの交際が、家の者にバレたら駄目なの? そんなに大層な家柄の人なの?」
どうしても、そんないい加減な人が、大層な家柄の人間とも思えない。
が、ククルカン皇家にも、アリンダのような皇子がいるのだ。
案外高い位の放蕩息子のほうが、始末が悪いのではないか。
「朱夏様は親しく接してくださるから、忘れてらっしゃるかもしれませんが、わたくしは売られてきた召使いですよ。買い取る人によっては、奴隷のような存在です。それなりの名家の息子であれば、家の者にとっては遊びであっても許せないでしょう。もっとも本当に、奴隷同然の扱いで、わたくしを慰み者にしておれば、返って何も言われなかったかもしれませんが。あの人は、それなりにわたくしを大事にしてくださったと言いましたでしょ。家の者は、危険に思ったのではないですか? 息子が本気で、わたくしと結婚などと言い出したら、厄介ですもの」