楽園の炎
アルは頭も良いし、働き者だ。
頼れるお姉さんのようなアルが、ただ生まれの身分が低いというだけで、恋愛も自由にならない。
納得できないな、と朱夏は唇を尖らせる。

「じゃ、その人の結婚話は、本気だったってこと? だから、家の者に引き裂かれたの?」

「いえ? さすがに本気でわたくしと結婚など、考えてはいなかったでしょう。口を突いて出てしまった程度のものですよ。そんなわけはない、と冷めた自分も心にはおりましたが、わたくしの大部分は、舞い上がっておりましたし、効果は絶大だったというわけです。子ができておれば、本気で考えてくれたかもしれませんがね」

「ふぅん。何だか・・・・・・アルもいろいろあったのねぇ」

恋愛経験ほぼゼロの朱夏には、よくわからない。

「それからは、誰も?」

「誰も、というわけではありませんけど、それほど真剣になることも、なくなってしまいましたね」

でも朱夏様よりは、だいぶ大人ですわよ、と、アルは笑う。
朱夏は少し膨れ、だが確かにそうなので、アルに手招きした。

「ね、ちょっと座って。教えて欲しいことがあるんだけど」

一応朱夏は、きょろりと辺りを見回してから、前に座ったアルに、ぐい、と顔を近づけた。

「あのさ。初夜って、何するの?」

「・・・・・・」

アルは何も言わず、ただ目を見開いて朱夏を見つめた。
たっぷりと時間をおいてから、ぐぐっとアルの首が傾げられる。
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