楽園の炎
「でもさ、葵だから拒んじゃったけど、ユウだったら、拒まないよ? 口付けされるのも、嫌じゃなかったし。拒まないのに、ユウに危険はないでしょ?」

「危険は・・・・・・ないでしょうね。朱夏様は確かに体術に長けていますけど、夕星様を拒む気がないなら、攻撃はしないでしょう?」

うん、と朱夏は、大きく頷く。
もっともいくら体術に長けていても、葵のときは、身体が動かなかったが。

「でも何だかユウが、このまま初夜を迎えたら、自分の身が危ういって言うの。それまでに、よく教わっておけって」

ぶっとアルが吹き出した。
声を上げて笑い転げるアルに、朱夏はぽかんとした顔を向ける。
ひとしきり笑った後、アルは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、なおも肩を揺らしながら、口を開いた。

「はは。ああ、しゅ、朱夏様。夕星様に何をされたのかは知りませんが、きっと朱夏様が、何もお知りじゃないのに気づかれたんですわ。確かに全くの予備知識なしにされたら、驚くかもしれませんわ。まして朱夏様は、先程も言いましたけど、体術の心得がありますもの。葵王様と違って、端(はな)から力ずくでくるつもりのない夕星様は、負けるかもしれませんよ」

「???」

「とにかく」

わけがわからない、といった風の朱夏に、アルは、びし、と人差し指を立てて、悪戯っぽく笑った。

「大丈夫ですわよ。夕星様を愛してらっしゃるなら、全てを任せておけばいいのです。何をされても、驚かないこと。何を見ても、驚かないことです」

ごくりと朱夏の喉が鳴った。
聞きようによっては、えらく恐ろしい。
朱夏の反応に、アルはまた、あはは、と笑った。

「ほんとに朱夏様、知らないのですねぇ」

ぷぅ、と朱夏は、頬を膨らませた。
が、『そんなことはない!』とは言えない。

一体何をされるのか。
不安だけが、大きくなっただけだった。
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