楽園の炎
「ククルカンは、遠いよね・・・・・・」

しょげる朱夏の頭をわしわしと撫で、葵は努めて明るく言った。

「元気出しなよ。朱夏がそんなんじゃ、夕星殿だって、朱夏を連れて行くの、気が引けるじゃないか。置いて行かれてもいいの?」

これには慌てて、朱夏はぶんぶんと首を振る。

「僕だって、十日やそこらで帰る気はないよ。何年か滞在して、みっちり外交を教えてもらうんだ。その間には朱夏だって、慣れるだろ? 子供ができてるかもしれないし」

「こっ子供・・・・・・」

自分が子供を産む、ということに、思わず朱夏は絶句する。
そんな朱夏を置き去りに、葵は何故か嬉しそうだ。

「朱夏と夕星殿の子供なら、可愛いだろうなぁ。う~ん、いっそのこと、それまでククルカンに滞在しようかな。父上もまだまだ元気だし、朱夏の子のこと、炎駒殿も知りたいだろうし」

そうなると、あの炎駒殿がおじいちゃんだね、と笑う葵に、朱夏は軽く目眩を覚える。
いまだに全然そういったことに現実味がない。
葵が簡単に、朱夏の子供のことを想像できるのが、不思議でならない。

ふと朱夏は、ナスル姫を思った。
今回の話が上手くまとまれば、ナスル姫は憂杏と結婚となる。
あの二人の子供・・・・・・と考えて、朱夏は吹き出した。
いきなり朱夏が吹き出したので、葵が目を丸くして朱夏を見る。

「ねぇ、憂杏とナスル姫の子供って、一体どんな子だろうね?」

笑いながら言う朱夏に、葵はちょっと考えて、同じように吹き出した。

「あははっ。う~ん、想像つかないな。でも、憂杏は凄く可愛がりそうな気がする」

「確かに、子煩悩っぽいわね。あたしらも、ちっちゃい頃から面倒見てもらってたものね」
< 317 / 811 >

この作品をシェア

pagetop