楽園の炎
「ねぇユウ。皇太子様には、呼ばれてないの?」

ケーキをぱくつきながら、朱夏は傍に寝そべる夕星に聞いた。
立てた肘に頬を乗せて、夕星は眠そうな目で朱夏を見上げる。

「呼ばれたがね。俺は憂杏と親しいから、俺がいたら憂杏がやりにくいだろ。ちゃんと話ができるよう、辞退した」

「そっか。そうよね」

「でも、兄上の、憂杏を見た瞬間の顔は、見たかったな」

ぼそりと言った言葉は、朱夏も同意見だ。
が、頷く前に、ナスル姫が夕星を睨んだ。

「どういう意味ですかっ」

「いや・・・・・・」

苦笑いを浮かべて、夕星はナスル姫から目を逸らす。
そうだね、とか言わなくて良かった、と、朱夏は素知らぬふりをしつつ、ケーキを頬張った。

「ね、美味しい?」

くるりと笑顔になって、ナスル姫が朱夏に言う。
初めは調理場をえらいことにしていた人の作品とは思えない、ふわふわとして少し甘い、立派なケーキだ。

「ええ。ほんとにお上手になりましたねぇ。あんまり上手に作られたら、わたくしの立場がないというか」
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