楽園の炎
朱夏が笑いながら言うと、ナスル姫も嬉しそうに笑って、頭を掻いた。

「えへへ。憂杏のためだと思うと、頑張っちゃうのよね。朱夏はそんな心配しなくても、お兄様は好き嫌いないし、お腹も丈夫よ。それに、朱夏はそれこそ、こんなことしなくてもいい身分だから」

「好き嫌い以前に、朱夏が作ってくれたモンなら、どんなモンでも俺は食うぜ」

しれっと言った夕星の言葉に、朱夏は赤くなった。
そういえば、と葵は思い出したように、夕星を見る。

「朱夏、こういう可愛い料理はできませんけど、野営の炊き出しなどはできますよ。兵舎での食事は皆で作るので、大勢の分を一気に作るんですよ。そういうのは、よく参加してましたし」

ねぇ? と振り向いた葵に、朱夏は微妙な顔をした。
フォローだろうか。

確かに葵の言うとおり、朱夏は外宮にいた頃は、食事を兵舎で摂ることも多かった。
女の子であり、王の側近の娘である朱夏だが、兵士らは昔から一緒に稽古をしているお陰で、良くも悪くもあまり気を遣わない。
一兵士と同じように、皆でわいわい材料を用意し、大鍋に放り込んで食事を作る。
朱夏も混じって、食事を作ったものだ。

美味しいものではあったが、果たしてそれは、世間の花嫁修業のような料理のうちに入るのだろうか。

が、夕星は意外に食い付いた。

「へぇ、楽しそうだな。市でもよく、皆で炊き出ししてたんだ。ああいう食事は、格別な旨さがあるよな」

「ユウ、お料理できるの?」

ちょっと驚いて、朱夏は身を乗り出した。
意外なことに、憂杏は何となく想像できるが、夕星のほうが、そういう家事はできそうに見えない。

「料理ってほどのモンでもないよ。その辺にあるものを鍋に放り込むだけだし。ん? もしかして、朱夏もその程度か?」

あはは、と笑って誤魔化し、朱夏は内宮へと視線を向けた。
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