楽園の炎
「ええ、今は。そこで香々背男(かがせお)様が、皆様を夕餉に招待しよう、と仰いまして。そのお誘いに」

「今日もか。昨日も、皆で食ったじゃないか」

「いえ、本日は、家族になるもの同士、腹を割って話したい、とのことで。夕星様、ナスル姫様、朱夏姫様に、そちらの商人様も」

「お、俺かぁ?」

思わず声を上げて、憂杏が己を指差してのけ反る。
確かにナスル姫と結婚すれば、憂杏も家族になる。
しかも、ナスル姫の婿となると、皇太子の弟・・・・・・。
ぶは、と朱夏は吹き出した。

「あははっ。ゆ、憂杏、考えてみれば、ナスル姫様とご結婚となれば、あんた、ユウの弟じゃない~っ!」

「うわ、ほんとだ。こんなごつい弟、嫌だなぁ。葵王のほうが、よっぽど可愛い弟だぜ」

ぐっと憂杏が拳を握りしめる。
が、アシェンの手前、手は出さない。

アシェンがいなければ、遠慮無く朱夏と夕星の頭に、げんこつをお見舞いしていただろう。
が、その代わり、ナスル姫が夕星に飛びかかった。

「失礼ですわよっ!! 憂杏は、お兄様も認める人格者でしょっ」

「ひ、姫君、お控えください」

飛びかかられた夕星よりも、アシェンのほうがおろおろしている。
自由奔放なこの兄妹には、慣れていないらしい。

さすがに夕星は慣れたもので、ナスル姫の背をぽんぽんと叩きながら、あやしている。
この短時間に、すでに数回飛びかかられているのだ。
慣れもするだろう。

「兄上が、憂杏を招いたか。葵王やお前も、同席するのか?」

夕星の問いに、アシェンは跪いたまま姿勢を正した。

「いいえ。砕けた話をお望みとのことですので、今申し上げたかたのみです」
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