楽園の炎
「あ・・・・・・あの。に、似合わないですかね、やっぱり」

目を見開いている父に、朱夏は恥ずかしそうに言った。
おそらくこんな格好をした娘を、炎駒すら初めて目にしたぐらいだろう。

だが炎駒は、一つ息をつくと、笑みを浮かべた。

「いいや、よく似合っている。・・・・・・驚いたな、母上そっくりだ。いや、そっくりというほど、似ているわけではないが。雰囲気かな。お前はきちんとしたリンズは嫌いだろうが、それは動きやすくて、いいのではないか?」

「ええ。でもこんな不思議なリンズ、初めてですよ。こんなのだったら、あたしも嫌がらないのに」

父に褒められて、朱夏も微笑んだ。
炎駒は悪戯をばらすように、にやりと笑うと、朱夏の腰帯の歪みを直してやりながら言った。

「母上も、なかなかお転婆な人だったからね。お前と同じように、普通のリンズは動きにくいと言っていた。でも、私と付き合うようになると、どうしてもリンズを着る機会も増える。それで、自分で考え出したのだよ」

「母上も、そうだったんですか。ああ、お気持ち、わかるわぁ」

朱夏はきょろきょろと、自分の姿を眺めてみる。

「でもやっぱり、ちょっと照れくさいです」

見かけはあくまでも、普通のリンズだ。
上品な淡い藤色も、女性らしさを引き立てている。

「何、着ている本人にとっては、いつもの格好と変わらん感覚なのだろう? 大丈夫、よく似合っているよ。いつものリンズを着ていると思っておきなさい」

ぽんぽんと頭を撫でられ、朱夏はおずおずと頷いた。
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