楽園の炎
夕餉の席に向かう間、憂杏はずっと黙ったままだった。
緊張もあるのだろうが、それよりむしろ、着慣れない衣装と慣れない状況での食事の憂鬱さが勝っているようだ。

「ほらほら憂杏。そんな気難しそうな顔してたら、打ち解けるものも打ち解けないわよ。美味しいものを食べられるって思えばいいじゃない。ユウもいるんだし」

「お前はやっぱり、根はお嬢様だな。ずっと王宮にいたからか?」

ちらりと朱夏を見て言う憂杏に、朱夏は眉根を寄せる。
お嬢様など、朱夏をよく知る憂杏から出る評価とは思えない。

「いくら跳ねっ返りとはいえ、宗主国の皇族とも、物怖じせずに付き合えるだろ」

「憂杏もじゃない。ユウとは、親友でしょ」

「そういうんじゃなくて・・・・・・」

う~む、と言葉を探す憂杏を見上げていた朱夏は、ふと前方に目をやった。
前から葵が歩いてくる。

「あ、葵。そうだ、皇太子様と、お話したの?」

葵のほうに駆け寄りながら言う朱夏を、葵は驚いたような顔で見つめた。

「・・・・・・どうしたのよ?」

じっと自分を見る葵に、朱夏は首を傾げた。
そこでやっと、葵が笑みをこぼす。

「ああ、何だかびっくりして。そんなリンズ、持ってたの?」

葵に言われて、初めて朱夏は葵の驚きの意味がわかった。
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