楽園の炎
夕餉が終わり、その夜は憂杏もさすがに疲れたようで、王宮に泊まることになった。

「とりあえず、宝瓶宮に帰ろう。着替えたいでしょ?」

廊下を歩きながら、傍らを歩く憂杏に声をかける。
ああ、と呟き、だらだら歩く憂杏は、相当お疲れのご様子だ。

宝瓶宮に入ると、憂杏は外套も取らずに、一目散に長椅子に倒れ込んだ。

「ちょ、ちょっと憂杏。着替えないと・・・・・・」

「うう・・・・・・。もう何をする元気もねぇよ。疲れた」

「これ憂杏。炎駒様のお衣装が、皺になってしまうじゃないの」

奥から出てきた桂枝が、長椅子に寝転ぶ憂杏を叱りつける。
憂杏はちらりと母親を見、のろのろと身体を起こした。

「母上、お身体は、大丈夫なんですか?」

外套を取りながら言う憂杏に、桂枝がきょとんとする。
そして、ああ、と思い出したように、少し笑った。

「大丈夫ですよ。アルに薬茶を淹れてもらいましたから。ちょっと疲れただけですしね」

「疲れも溜まると、身体壊しますよ。いいから、休んでください」

特にそれほど優しい言葉をかけるわけではないが、憂杏は桂枝を気遣う。
桂枝も、息子の手から取った外套をたたみながら、まんざらでもないように頷いた。

「そうね。でも今回のことは、成り行きが気になって、とても休んでなどいられませんわ」

ふぅ、と息をつき、桂枝は憂杏の横に座る。
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