楽園の炎
「お前、ナスル姫様を、本当に娶るつもりなの?」

「ん~・・・・・・。そうですねぇ。彼女さえ良ければ、ですが。母上は、反対ですか?」

朱夏は部屋に入って、アルに手伝ってもらいつつ着替えていたが、聞こえてきた話に、つい扉に耳を寄せてしまう。

「・・・・・・朱夏様。盗み聞きですか?」

「たまたま出られないだけよ」

呆れ気味に言うアルに、朱夏は、ちっちっと人差し指を振ってみせる。
出られないというのも、嘘ではない。
まだ着替えの途中なのだ。

「もぉ。何であたしがいなくなった途端、こんな面白い話をするのよ」

「朱夏様の前では、できないからじゃないですか」

「何でよ」

「そういう話、あんまり人に聞かれたくないじゃないですか。真剣な話だからこそ、ですよ」

冷静なアルの言葉に、朱夏は少し膨れながらも、まぁね、と呟く。
でも耳は、扉に貼り付いたままだ。

「反対だなんて、そんなこと、あるわけないではないの。ただ、うちはそんな裕福ではないし。とても釣り合う家柄でもないでしょう?」

桂枝が、今まで何度も考えたことを口にする。

「まして、お前は仕官もしていない、ただの商人ではないの。そのような生活、ナスル姫様ができるとは、思えないのよ」

「う~ん、まぁ普通はそう思うでしょうね。でも、何となくあのお姫さんには、そういう常識は、当てはまらないような気もします」
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