楽園の炎
「やるなぁ、朱夏。まさか投げ飛ばされるとはね」

周りの兵士たちからも、ぱちぱちと拍手が起こる。

「凄かったです。夫婦喧嘩は、さぞや恐ろしいことになるでしょうな」

「まだまだっ!」

和みそうになった空気を切り裂き、朱夏は頭から夕星に突っ込んだ。
完全に油断していたと思ったのに、夕星は一瞬で体勢を整え、朱夏を受け止める。
傍(はた)から見たら、簡単に倒れそうなのに、夕星は倒れず、朱夏を抑え込んだ。

「気の立った猫のようだな。それっ」

朱夏の腰を掴んだまま、今度は夕星が素早く足を払った。

「あっ」

朱夏の身体が一瞬宙に浮き、横倒しに倒れる。
が、地に倒れ込む前に、夕星の腕に力が入り、地面に叩き付けられることなく、ふわりと押し倒された。

「どうだ? 降参か?」

上から覗き込む夕星に、朱夏はきょろきょろと隙を捜す。
だが、ちょっと考えて、こくりと頷いた。
夕星は、にやりと笑うと、朱夏の上から身体を起こした。

「さすがの朱夏様も、夕星様には敵いませんか」

あまりの凄まじさに、ちょっと引いていた隊長が、息をついて言った。
朱夏は起き上がりながら、ちらりと夕星を見る。

「ユウ、本気出してないでしょ」
< 365 / 811 >

この作品をシェア

pagetop