楽園の炎
口調にも余裕が感じられるし、今朱夏を倒すときも、わざわざ怪我をしないように、支えたのだ。
不満そうに言う朱夏に、夕星は当たり前だという風に、肩を竦めた。

「俺が本気を出したら、お前死ぬぜ」

さらっと言われた言葉に、皆固まる。
ここの兵士の中では唯一、実際に戦場で戦ってきた人間なのだ。
そのような人間が本気を出すということは、命のやり取り以外にあり得ない。

「大体、俺がお前相手に、攻撃仕掛けられるわけないだろう」

微妙に凍り付いた空気を、一瞬で溶かすように明るく言い、夕星はぐりぐりと朱夏の頭を撫でた。

夕星の言うとおり、朱夏の相手はしてくれるが、基本的に夕星は防御に徹している。
自分から仕掛けるときも、決して攻撃ではない。
朱夏の動きを封じるだけだ。

「でもさ、もしものときのために、ユウぐらいの人でも、倒せるぐらいになりたいんだもの」

夕星と二人で稽古場の隅に歩きながら、朱夏はぽつりと呟いた。

「アリンダか」

こくり、と頷く。

「強いんでしょ?」

「まぁな。でも、戦場以外ではどうかな。剣術には秀でているが、体術はそうでもないかもよ。軍神の如き働きってのも、軍を指揮するのが抜群に上手いだけで、あいつ個人の強さはどうだろう。そもそも大将ってのは、自ら前線には立たないもんだろ」

言いながら、きゅ、と朱夏の手を握る。

「大丈夫だよ。あんだけ攻撃できりゃ、どんな男だって、おいそれと手出しはできんよ。俺にだって、蹴りを食らわすぐらいなんだし」
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