楽園の炎
「お似合いですよ。・・・・・・ていうか、ナスル姫様~、ほんとにいいんですか?」

しつこいようだが、やっぱりもったいない。
複雑な表情で言う朱夏に、ナスル姫は、きょとんとする。

「何が? それより朱夏、わたくし、‘姫様’じゃないわ。もう朱夏のほうが、身分は上なのよ?」

「えー・・・・・・だって、いきなりそんな。あれ? じゃあ憂杏は、何て呼んでるんです?」

話を逸らすためと、単なる興味で聞いてみたのだが、聞いた途端ナスル姫の顔が輝いた。
一段と嬉しそうに、頬の横で両手を組む。

「あのね! 憂杏がわたくしを‘お姫さん’って言うのは、わたくしのことを想ってくれてるからなんですって! 殿方にとっては、好いた女子(おなご)は‘お姫様’なものだって」

「まさかそれ、憂杏が言ったんですか?」

声が震えてしまう。
似合わねーーーっ!! と叫んで大笑いしたいところを、ぐっと堪えて、朱夏はナスル姫に問うた。
が、ナスル姫はふるふると首を振る。

「ううん。市のおばさんが教えてくれたの。でも、憂杏も認めたわよ! そういうことだって、言ってくれたもの!」

ぶは、と朱夏が吹き出した途端、前方からげんこつが飛んできた。

「いやいや、良いことよ。うはは。なぁんだ、結局憂杏も、ナスル姫様に惚れ込んでるんじゃない。くくっ。あんなに大人ぶって、慎重なふりしてたのにさ」

憂杏の拳を避けながら、朱夏は笑い転げた。
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