楽園の炎
「そ、それはそうかもしれんがなぁ。いや、俺だって、ちゃんとお姫さんを迎えた後だったら、全然良いんだよ。どんどん頼って、いくらでも甘えてくれりゃいいぜ。けどなぁ・・・・・・」

視線を彷徨わせて、憂杏はごにょごにょと言う。
このまま夜を迎えて、果たして自制を保てるか。
せめて部屋を区切れば大丈夫だが、ナスル姫が恐がりそうだ。

「ふふ、確かにな。ナスルは朱夏とは違って、その辺りのこともわかってはいるだろうが。恐怖が先に立ってるのかな。それとも、憂杏ならそうなってもいいと思ってるのか。どちらにしろ、遅かれ早かれナスルは憂杏の元に嫁ぐ気満々だからな~」

にやにやと、夕星は人事のように言う。
事実、人事なのだが。

「そ、そうは言ってもだな。俺だって、ちゃんともう、お姫さんを嫁にするって、思ってるよ。けど、万が一のことを考えたら・・・・・・いや、そうでなくても、ククルカン皇帝の娘を、まだこの状態で手込めにはできんだろう」

くはは、と夕星が、妙な笑い声を上げた。
吹き出したいところだが、表の朱夏とナスル姫の注意を引くと厄介だ。

「まぁそうだねぇ。まずないだろうが、うっかりナスルがお前との生活は無理だと思った後で、妊娠なんかがわかった日にゃあ・・・・・・」

「ククルカン皇帝のお怒りよりも、お姫さんを無用に傷つけることになるほうが、俺にとっちゃ恐ろしいぜ」

頭を抱えたまま、憂杏が唸る。

「そう思うなら、ナスルのためを思って、我慢することだな」

ぽん、と肩を叩き、夕星はにやりと笑う。
憂杏は、しばらくそのまま頭を抱えていたが、やがて顔を上げると、ふぅ、と大きく息をついた。
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