楽園の炎
憂杏はその場に膝を付いて、頭を下げた。

「ふむ。いきなり来て悪かった。ついては少し、市の様子を知りたいのだが。お邪魔してもいいか?」

天幕を見上げながら言う皇太子に、憂杏は頭を下げたまま頷いた。

「見ての通り、狭苦しいところではありますが・・・・・・」

そう言って立ち上がり、天幕の前に下がっている布を跳ね上げた。
朱夏が先に中に入り、皇太子を促す。
皇太子は他の兵士をその場に残し、中に入った。
ナスル姫も憂杏に促されて、後に続く。

「ナスル、元気そうだな」

最後に憂杏が入り、入り口の布が降ろされると、皇太子が笑ってナスル姫に声をかけた。

天幕の中は、憂杏が一人で暮らしていたときと、さして変わらない。
寝台が幾分小さくなって、二つに分かれているところぐらいだろうか。

「ナスル姫様のものが、ないような気がしますね」

ぐるりと天幕の中を見回し、朱夏が言った。
ナスル姫は、ぱたぱたと奥に走り、お茶を用意している。

「・・・・・・手伝いましょうか」

鍋に水を入れているナスル姫に近づいて言うと、姫は、ぱっと笑顔になった。

「えっと、じゃ、頼もうかしら。あっ! お洗濯物、干さなくちゃ。あの、お茶っ葉は、そこの缶に入ってるわ」

忙しく朱夏に言うと、ナスル姫はまたぱたぱたと走り、入り口近くに置いていた桶を抱えて外に出る。
外では兵士が驚いているだろうなぁ、と思い、朱夏は鍋にお茶っ葉を入れた。
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