楽園の炎
「大丈夫だと、思いますよ。もしナスル姫様が寝込むことがあっても、憂杏なら身の回りのことは、自分でできますし。もちろん姫様のお世話だって、難なくこなすでしょう。ナスル姫様も、本当に生き生きしてらっしゃいますし、ご心配には及びますまい」

「朱夏! ありがとう!」

身体を起こし、ナスル姫が弾けるように笑った。

「兄上、朱夏もお兄様とは、お似合いでしょう? とっても強いのよ。朱夏ならお兄様にアリンダ様の手が伸びても、きっと返り討ちにしてくれますわ」

「ああ・・・・・・。そうだ、朱夏姫には、そっちの心配事があるのだったな」

ふぅ、と息をつき、皇太子は少し苦々しい表情になった。

「ではナスルのことは、全面的に憂杏殿に任せよう。朱夏姫、夕星に聞いているかもしれないが、アリンダの魔の手が、そなたに伸びるかもしれない。だが、奴のことは、私が許可する。そうなったら、存分にぶちのめしていい。ナスルも以前言ったように、最早奴を皇子と思わないで良い」

朱夏は驚いた。
似たようなことは、夕星から聞いていたが、『皇子と思わないで良い』とは。

「そうよ! こてんぱんにやっちゃって! 注意はされても、痛い目は見てないんだもの! それこそ、皇子の立場を振りかざしているのよ。その鼻っ面を、ばっきり折ってやれば良いのよ!」

鼻息荒く朱夏に詰め寄るナスル姫に、たじたじとなる朱夏だが、意外にも皇太子も、特に止めない。
同意見のようだ。

「ふふ。そうなった奴の顔を、見てみたいものだな」

顎を撫でながら、物騒なことを言う。
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