楽園の炎
「あ、雨の季節ですかぁ。いきなりそれは・・・・・・気が滅入るなぁ」

苦笑いをする憂杏に、皇太子も曖昧に笑う。

「朱夏姫には、厚めの外套を用意したほうがいいかもな。この良い気候に慣れているなら、一発で風邪を引いてしまいそうだ」

「・・・・・・俺の記憶の限りで、あいつが寝込んだことは、ありませんがね」

まぁでも、あいつも何だかんだ言っても女子(おなご)なんだな、と思いながら、憂杏はナスル姫に反物を巻き付けられている朱夏を見た。
正直、ユウのために、あれほど憔悴した朱夏には、心底驚いた。

「どんな奴でも、年頃になると、変わるもんなんですね」

ぽつりと呟いた憂杏に、皇太子は面白そうに片眉を上げた。

「朱夏姫は、そんなに変わったのか?」

「そうですねぇ。恋愛なんかに、全く縁のない奴でしたけど。あれぐらいの歳になると、女子は皆、結婚するもんなんですよ。あいつはああ見えて、身分も相当高いから。でも、いつまでも男にまみれて剣を振るっている。色気づくってことが、全くなかった奴ですよ」

「本人がそうであっても、言い寄られることは、なかったのだろうか? 朱夏姫は、それなりに可愛らしいかたではないか」

ははは、と憂杏は、笑い声を上げた。
憂杏は長く朱夏といすぎて、今更彼女をどうとも思わない。
それこそ足元もおぼつかない頃から、朱夏を見てきたのだ。

「どうなんでしょうね。俺は朱夏が仕官してからは、あんまり王宮に近寄らなかったから、わかりませんが。まぁ・・・・・・周りの奴らは、あいつは葵王と一緒になると思ってたんじゃないですかね」

「なるほどなぁ。最上級の身分の葵王殿が相手では、言い寄る男など、おらぬかもな」
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