楽園の炎
「ったりめぇだ。しゃれじゃねぇからな」

「そうそう。アリンダ様なんて、兄上やお兄様と比べたら、全然気品も威厳もないかただもの。気後れすることもないわ」

盛り上がる憂杏とナスル姫に、朱夏は微妙な笑顔を向けた。
憂杏なら、本当に遠慮無くアリンダ皇子を血祭りに上げそうだ。

「と、とにかく、憂杏なら心配ないと、わたくしも思います」

軽く額に手を当てて、呻くように朱夏は皇太子に言った。
皇太子も、苦笑いを浮かべながら、そうだな、と呟いた。

「じゃ、憂杏。これとこれにするから」

朱夏が腕を広げて、肩に掛かった布を示した。
そこでやっと、朱夏が何をしていたのかを思い出したようだ。
憂杏は、ああ、と呟いて、ぽんと手を打った。

「ふぅ~ん。お前にしちゃ、良い趣味じゃねぇか」

反物を受け取りながら言う憂杏に、ナスル姫が少し誇らしげに言う。

「わたくしが見立てたの。似合うでしょ?」

「ああ、納得・・・・・・」

朱夏が自分で選んだにしては、趣味が良い。
今まで綺麗なリンズに興味もなければ、どういうものが自分に似合うかも、わかっていないのだ。
色目も、無難な白やグレーといったものしか、自分では選ばないし、たまにある正式な場への参列には、アルや桂枝が選んだ衣装を着る。

「お前もなぁ、ちっとは自分を磨けよ。ユウと結婚したら、それこそきちんとした格好をしておかないといけないんだからな」

手早く反物をまとめながら言う憂杏に、朱夏は、はぁ、とため息をついた。
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