楽園の炎
結局市を出たのは、日がかなり傾いてからだった。
皇太子も市が面白かったらしく、憂杏の店を出てからも、いろいろな店を巡っては、興味深そうに商人らと言葉を交わしていた。

そういう気さくさは、ユウのお兄さんだなぁと思う反面、傍らを固める兵士たちの堅さのギャップがおかしくなる。
おそらく皇太子が、このように市に繰り出すことなど、今まではなかったのだろう。

夕焼けの中を、一団と共に王宮に帰り、皇太子を部屋まで送って、宝瓶宮に帰ってきた朱夏は、以前の憂杏のように、長椅子に倒れ込んだ。

が、倒れ込みながら、朱夏は慌てた。
長椅子には、すでに夕星が寝そべっていたのだ。

慌てたところで、すでに大きく傾いた身体を止めることはできない。
わたわたと両手を振り回しながら、朱夏はそのまま夕星の上に倒れ込んだ。

「・・・・・・えらい積極的だな」

朱夏を抱き留め、夕星は寝そべったまま呟いた。

「ちっ違ーうっ! なな、何でユウが、こんなところで寝てるのよ!」

起き上がることもできず、朱夏は夕星の上で喚いた。
飛び起きたいところだが、夕星にがっちりと抱きしめられているのだ。

「兄上と、市に行ったのだろう? ナスルと憂杏はどうだったか、聞こうと思って来たのに、まだ帰ってなかったからさ。遅かったな」

どこか不機嫌そうに言う。
やっと夕星の腕から逃れた朱夏は、がばっと上体を起こして、夕星の横に座った。

「他の殿方に、朱夏様を取られるのは、あまり良い気分ではありませんものね」

アルが、お茶を置きながら言う。

本来アルは、夕星はもちろん、葵ともおいそれと口など利けない身分だが、朱夏を待っている間、いろいろ話したのだろう。
そういう身分を、あまり気にしない夕星の性格が大きいのだろうが。

「そんな大袈裟な。ユウが、身分が割れるのは好ましくないって言ったんじゃない」

「そうだけどさ。ちぇっ。兄上も、朱夏を随分気に入ったと見える」
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