楽園の炎
「・・・・・・ユウって、結構独占欲が強いのね」

ぶつぶつ言う夕星に、朱夏は、ちょっと意地悪く言った。

「そうだな。今まで自覚はなかったが。まぁ、今までそんなに大事に想う奴が、いなかったからな」

ナスルぐらいで、と言う夕星に、朱夏はちょっと赤くなった。

「そうそう。そのナスル姫様ね、頑張ってたよ。生き生きしてらしたし、楽しそうだった」

話を逸らすように、朱夏は今日の出来事を話した。
ついでに、ククルカンの風土についても教えてもらう。

「ああ、そうだな。今は寒いかもね」

「やっぱり? 寒いって、どれぐらい? アルファルドも、何ヶ月かは夜とかが、ちょっと肌寒くなるんだけど」

「そんなもんじゃないよ。朱夏は雪、見たことある?」

夕星の言葉に、朱夏はきょとんとする。

「ゆき? って、何?」

「氷と言うか。雨の代わりに、かき氷が降ってくるようなもんだよ」

ぽかんとしたまま、朱夏は首を傾げた。
この温暖な気候しか知らない朱夏には、かき氷が降ってくると言われても、そりゃ~涼しげでいいじゃない、ぐらいにしか思えない。

「氷室の中みたいな気温だな」

そう言われて、ようやく朱夏の顔が引き攣った。

「死んじゃうじゃない」

「死にゃせんよ。そこまでじゃない。けど、朱夏には、きついだろうな」

そういえば、夕星もこの国に来た当初は、暑さに辟易していたようだし、ナスル姫も体調を崩していた。
大分環境が違うようだ。

「ちょっと厚めの衣は、今日憂杏に頼んできたの。でも、そんなに寒いとは思わなかったなぁ。大丈夫かしら」

「ま、大丈夫だよ。寒けりゃ、俺にくっついてりゃいい」

にやりと笑いながら、肩を抱いてくる夕星の頬を、朱夏は、ぐい、と押し返した。
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