楽園の炎
身体を磨き上げ、周りにも真新しい衣や小物が増えてくると、徐々に旅立つ日が近いということは実感する。
だが、今になってもまだ、自分が夕星の妻になるということが、信じられない。

「ほんと、遅いですわよねぇ。普通の女子(おなご)なら、十を過ぎれば、やれどの殿方が格好良いだの、どこの殿方に嫁ぎたいだの、集まってはそういう話ばっかりしているものですわよ」

「あたしも、ちょっとは女子に混じって、そういう話をしておくべきだったかしら」

そういえば、結局初夜に関しても、わからないままだ。

「そうですわねぇ。朱夏様ほどになりますと、確かに色気づくのも、少しは必要と思ってしまいますわね」

案外女の子同士のたわいない話も、勉強になるものなのですわね、と言うアルに、朱夏はため息をついた。

今更、どうしようもない。
夕星に任せておけば良いという、アルの言葉を信じるしかない。

「でも、女の子同士の話の内容を、ユウが知ってるっていうのも、考えてみれば不思議よねぇ」

ふと思ったことを呟いた朱夏に、アルが、ぶはっと吹き出した。

「そうじゃありませんよ。その年頃の者は、女だろうが男だろうが、興味は一緒なんです」

「あたしみたいな人って、いるのかしらね」

「いるでしょう。朱夏様ぐらい、徹底して知らないっていうのは珍しいかもしれませんけど。まぁそんな気にすることは、ないですよ。ちゃんと殿方には目覚めたじゃないですか」

仕上げに身体全体を軽くタオルで拭き、アルは朱夏にゆったりとした夜着を着せた。
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