楽園の炎
「朱夏っ!!」

途端にナスル姫が、朱夏のほうへ身体を投げ出す。
ぎょっとした朱夏が、落ちそうになるナスル姫を、慌てて支えた。

「こらこら。誰もがお前を支えられると思うなよ。結構重いんだからな」

抱き上げられたまま、じたばたと暴れるナスル姫に、夕星が軽く失礼なことを言う。

「まぁっ何てこと言うんですっ! 女子(おなご)に向かって重いだなんて、失礼ですわよっ」

きゃんきゃん喚くナスル姫を降ろし、夕星は稽古場の入り口を見た。
憂杏が、苦笑いを浮かべて立っている。

夕星の手から逃れたナスル姫は、今度こそ朱夏に、がばっと抱きついた。
助走はついていないので、ちょっとよろけるぐらいで、何とか朱夏も踏み留まる。

「ナ、ナスル姫様。お久しぶりです」

「朱夏も! 会いたかったわぁ」

朱夏に抱きついたまま、きゃっきゃっとはしゃぐナスル姫に、朱夏も嬉しくなる。
その間に、夕星に手招きされ、憂杏も傍に歩いてきた。

「よぉ、どうだ? ナスルに生気、吸い取られてないか?」

「はは。まぁ確かに、お姫さんは元気だなぁ。でもお陰さんで、楽しいぜ」

そこで初めて、兵士らは憂杏に飛びかかる。

「憂杏! やったな!!」

「羨ましいぜ、この野郎!」

たちまち憂杏は、兵士にもみくちゃにされてしまう。
隊長や少年兵らは、ナスル姫の前に跪いた。

「姫様。この度は、誠におめでとうございます」

「おめでとうございますっ!」

隊長に続いて頭を下げる少年らに、ナスル姫はにこりと笑って、自らも頭を下げた。

「ありがとう。皆、そんなにかしこまらなくてもいいって。わたくし、もう商人なのですからね」
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