楽園の炎
そう言うナスル姫は、王宮にいたときとは違い、動きやすいこざっぱりとしたリンズをまとっている。
格好は平民だが、磨き抜かれた気品は、隠しようがないようだ。
ただの商人には見えない。

「ところで、どうしたんだ? もしかして、ナスルが根を上げたのか?」

「そんなわけないでしょっ!!」

夕星の言葉に被る勢いで、ナスル姫が振り向きざま叫んだ。

「そろそろ帰国でしょう? 支度もあるから、一旦戻って来なさいって、兄上から連絡があったのよ」

ああ、なるほどね、と呟き、夕星は朱夏に顔を向けた。

「朱夏もそろそろ、用意を終えておかないとな。朱夏のほうが、荷物が膨大になるのかな?」

「そうでもないよ。あたし、あんまり持ってないし。新しく作ってもらったもののほうが、多いぐらい」

「朱夏様ぁ~、寂しいです~」

少年兵らが、わらわらと朱夏に群がる。

「あらあら朱夏。人気者ねぇ」

「強いからなぁ」

ナスル姫と憂杏が、少年らに囲まれる朱夏を眺めて言った。
皆が別れを意識し、少し寂しくなる。

「夕星様、朱夏様を、幸せにしてあげてくださいよ」

きゃんきゃんと子犬のように吠える少年兵たちに、夕星も笑って頷いた。

「ああ。任せとけ」
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