楽園の炎
夕星に言われて、侍女らは恭しく頷くが、言っている本人が笑っている。
相変わらず、侍女たちの憂杏に対する態度を、楽しんでいるようだ。

そんな夕星に、古参らしき年かさの侍女が、こそっと近づいた。

「あの、夕星様。ナスル姫様は、本当にあのかたと?」

小さな声で耳打ちする。
おそらく乳母と同じぐらいの地位の侍女なのだろう。
ずっと姫を見てきた侍女ほど、今回のことは衝撃だったに違いない。

「ああ。ほら、見るからに頼りがいがありそうだろう?」

「そ、それにしても・・・・・・ああ、手塩にかけてお育てしてきた姫君が・・・・・・。いえ、お人柄は、少しお話させていただきましたし、以前から姫様のところにいらっしゃっておりましたので、理解しておりますよ。良いかたなのは、重々承知しております。ですが、まさか自らが商人になるなど・・・・・・」

「そうですよ。何も姫様が商人にまで身分を落とさなくても。憂杏さんに、王宮に入っていただけばいいではありませんか」

他の侍女も、夕星に詰め寄る。
こそこそと喋ってはいるが、夕星を中心に、侍女がきゅっと固まっているのは異様だ。
すぐにナスル姫が駆け寄ってくる。

「もうっ! 何言ってますのよ。わたくしの選んだかたに、何か文句でもあるの?」

侍女の輪の中に顔を突っ込み、ナスル姫が言う。
年かさの侍女は、ふぅ、と息をつくと、しげしげとナスル姫を見ながら、困ったように口を開いた。

「姫様。何も姫様の選んだ殿方に、難癖つけようというわけではないのですよ。ええ、お小さい頃からお仕えしてきたわたくしから見ても、納得のいくおかただとは思いますわ。でもですよ。何も姫様が、商人にまでならなくても」
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