楽園の炎
「そうですわね。できるだけのことは、お話しておいたほうが、いいでしょう。でもきっと、憂杏さんがお知りになった姫様が全てですわよ。おそらく姫様も、これと思った殿方には、全てをさらけ出すはずです。まして、今は研修期間中でしょう? そんな大事な期間を、無駄にするお人ではありません」

「お姫さんは、そんなことはないと思うが、研修期間だからこそ、その期間だけは、あらゆることを隠し通そうとする奴もいるだろう?」

ナスル姫に忠誠を誓う者ほど、こういうことを言うと、目くじらを立てて怒り出すものだが、ラーダは、ほほほ、と笑い声を上げた。

「ええ、確かに。ですが、ナスル姫様には、そういった芸当はありませんわ。純粋というか、単純というか。ただ単純に、自分の全部を見てもらおうとしか、思わないかたですから」

傍の侍女たちも、うんうんと頷いている。
夕星にしても、確かに性格の裏表はない。
見えている部分が全ての、さっぱりとした性格だ。

「そういえばユウにしても、隠し事はあんまり得意じゃないようだな」

ははは、と笑い、憂杏は寝台にぼんやりと座る朱夏を、楽しそうに飾り付けるナスル姫を眺めた。

「本当に、憂杏さんが王宮勤めの高官なら良かったのに」

ぽつりと一人の侍女が言ったことに、ラーダは、ふ、と笑った。

「わたくしも、そう思いましたけど。でも、よくよく考えてみれば、姫様のお相手としては、この上なく好条件かもしれませんわ。姫様の仰るように、宮殿から出たほうが、姫様のおためになりますもの。檻から放たれた姫様をお守りするには、それなりの力がなければ。加えて、万が一アリンダ様に襲われても、皇族だからと怯まないかたとなると、そうはおりますまい。まさに、うってつけですわ。姫様の目の確かさには、本当に感心いたします」

憂杏を褒めつつ、最終的には手放しでナスル姫を褒めちぎる。
ナスル姫付きの侍女頭でこれなら、国にいるという乳母ともなれば、一体どれほどのナスル姫贔屓なのか。

憂杏は苦笑いを浮かべて、侍女らを見た。
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