楽園の炎
「ねぇ憂杏。憂杏も、わたくしと王宮に泊まるでしょ? 寝台の用意がいるかしらね」

散々朱夏を着せ替え人形よろしく飾っていたナスル姫が口を開いたのは、朱夏がぐったりと疲れ、憂杏が侍女らと散々話をし尽くし、その話にも飽きた夕星が、午睡から覚めた頃だった。
日はすっかり落ちている。

「まぁお兄様。寝てらしたの? ねぇ、この部屋は広いから、憂杏も新しい部屋を用意してもらわなくても、一緒でいいでしょう?」

「うん、まぁそうだな」

伸びをしながら、だるそうに言う夕星に、憂杏はちょっと微妙な顔をした。

「いやぁ、ここはまずいだろ。俺は姫さんの婚約者だが、身分が上がったわけじゃなし。ここは内宮でも奥じゃないか。そんなところに、商人が泊まり込んでちゃまずいって」

「じゃ、また宝瓶宮に来る?」

朱夏が身体にまとわりつく衣装を取りつつ、声をかける。

「それも、炎駒殿に悪いような気がするなぁ。居間を占領してしまうし」

どうすっかな、と考える憂杏に、夕星がひょいと顔を出す。
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