楽園の炎
「出立!!」

本隊を率いる隊長のかけ声を合図に、ククルカン軍が正門から出て行く。
隊の中央付近に皇太子が、後方には夕星がついている。

乗り慣れた軍馬の上から炎駒に手を振った朱夏は、そのまま父が見えなくなるまで、ずっと眺めていた。

「首の筋がちがうぞ」

ぽつりと言われて、やっと朱夏は、視線を上に向けた。
同じ馬上に、夕星がいる。
朱夏はもう一度、後ろを見、やがて姿勢を戻した。

「寂しいか?」

葵と同じ事を聞かれ、朱夏は、ふふ、と笑った。
初めより、大分気持ちも楽になっている。

「寂しいけど。でも、ちょっと楽しみ。あたしもさ、葵と一緒に、いろんなところに行ってみたい」

「おい。お前は俺の花嫁として、ククルカンに行くんだぜ」

ちょっと不満そうに、夕星が言う。

「駄目なの?」

「駄目じゃないが。何で葵王となんだよ。いろんなところに行きたきゃ、俺が連れて行ってやる」

拗ねたように言う夕星に、朱夏は笑った。

「やきもち焼きねぇ」

朱夏は身体を少し起こして、とん、と夕星の胸にもたれかかった。

「お前はナスルのように、べったべたに甘えてくれないからな」

そういう夕星の視線の先には、憂杏とナスル姫の馬がいる。
相変わらず、斜めから見ないとナスル姫の姿は全く見えない。
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