楽園の炎
同じように温い目をしていた葵は、我に返ったように朱夏に視線を戻して頷いた。

「うん。僕は大丈夫だよ。適応力は、僕のほうがあるのかもしれないね」

「良かった。でも、葵より先に参っちゃうなんて、ちょっと悔しいわぁ」

苦笑いをしつつ、朱夏は控えていたアルに、先程憂杏がくれた煎じ薬を渡した。

「葵は、尻のほうが、きてるんじゃないのか?」

憂杏が、ばしんと葵のお尻を叩く。
あて、と小さく叫び、葵が己のお尻をさすった。

「こんな長い間、馬に乗ってたこともないだろう? お姫さんは俺の膝に乗せてやれるが、葵は一人乗りだからなぁ」

「憂杏の膝になんか、乗りたくないよ」

唇を尖らす葵に、夕星が笑い声を上げた。

「そうだなぁ。そろそろ慣れてない奴は、きつくなってくるかもな。ま、明日までの辛抱だ。明日には砂漠を出られるぜ。砂漠とコアトルの町の境目には、でかい温泉があるんだ。あそこの温泉は良質だし、旅の疲れを癒すにはぴったりだぜ」

「へぇ。じゃあやっとゆっくり湯浴みができるんだ。楽しみだなぁ。でも、朱夏の体調によっては、明日出発とはいかないのでは?」

葵の言葉に、朱夏は少し不安そうに、ちら、と夕星を見上げた。
が、そんな空気を憂杏がまたしても笑い飛ばす。

「何、心配いらねぇ。さっきも言ったろぅ? あの煎じ薬を飲んでぐっすり眠れば、明日にはケロッと治ってるって」

にやりと笑った憂杏が、何故か朱夏の背筋をぞくりとさせた。
その理由は、その日の夜、アルが憂杏に言われたとおりに、煎じ薬を溶いたお湯を持ってきたときにわかった。

煎じ薬の器からは、とんでもない臭いが漂い、恐る恐る覗き込めば、いかにも『不味いです!』というような色の、どろりとした液体が目に入る。
しかも、量が多い。

器の中を見ただけで、朱夏は今度こそ、気を失いそうになった。
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