楽園の炎
「ご挨拶に伺うだけなのに、結構連れて行くのね」

「俺たちはそのまま、コアトルを出るまで叔父上のところにご厄介になるからな」

ゆるゆると馬を進めながら、夕星が言う。
ちらりと振り向けば、皇太子の天幕は、他の兵士たちが畳みにかかっていた。

「俺らの世話役の者だけだな。侍女も、最低限。皆、コアトルの町に来ると、いろんなものがあるから、遊びたいんだよね。だから、お供してくれる者らは、ちょっと可哀相かもな」

「そのようなことは、ありません! いついかなるときでも、お側にあるのは当然であり、光栄であります!!」

いきなり入ってきた声に驚いて見ると、アシェンが馬を駆って来たところだった。

「何だ。兄上のお側にあるのが、お前の役目だろう」

少々鼻白んだ様子で言う夕星にもめげず、アシェンはすぐ近くまで来ると、さっと馬を降り、朱夏たちの横を歩いていたアルに手を差し出した。

「さ、どうぞ」

どうやら昨日からの流れで、アルを自分の馬に迎えに来たらしい。
別にもう、砂漠は出たのだし、そう急いでいるわけでもないので、普通に侍女は歩いてついてくるものなのだが。

アルも、困ったように首を傾げた。

「ええっと。あの、わざわざ迎えに来てくださったのですか? ありがとうございます。でも、もう砂漠は抜けましたし、大丈夫です」
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