楽園の炎
朱夏はじろりと夕星を見た。
わざわざこんなにしつこく聞かなくても、わかっているはずなのだ。
その証拠に、夕星はにやにやと笑っている。

「わかってるくせに・・・・・・」

「わかるわけないだろ? 聞いてないのにさ」

楽しそうに言う夕星に、朱夏は、ぼそっと『意地悪だ』と呟いた。
夕星はひとしきり笑った後、軽く馬を走らせて、皆の先頭に立った。

「朱夏は勢いづかないと、そういうこと、言えないのか」

背後からの声に、朱夏は、やっぱりわかってるんじゃない、と思いつつ、ちら、と振り返る。

「普通はそうだと思うわよ。ユウがぽんぽん言い過ぎなのよ」

「そうかなぁ。言われるほうは、嫌なもの?」

「嫌じゃないけど・・・・・・」

「俺は全然平気だけどね。ほんとに思ってないと、言わないし」

そう言って、後ろからぎゅっと朱夏を抱きしめる。

「あっ危な・・・・・・」

「大丈夫だって」

朱夏を抱きしめたといっても、手綱を放したわけではない。
器用に手綱を操りつつ、そのまま朱夏にじゃれる。

「う~も~っ。こ、こんなときに、何やってるのよぅ」

「お前がちゃんと答えないからだ」

後ろから首筋に顔を埋められたりして、朱夏はわたわたと暴れた。
が、下手に動くと落ちそうだし、その前に身体はがっちりと夕星に抱きしめられている。

大して動くこともできないのだが、後ろから来ていた皇太子や憂杏からすると、やはり妙な動きに見えるのだろう。
憂杏が、ちょっと速度を上げて、追いついてきた。
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