楽園の炎
「わー、確かにそれは、可愛いでしょうね~」

朱夏も想像し、顔をほころばせた。
侍女の語る夕星の幼少期は全く想像できないが、ナスル姫は容易に想像できる。
早い話が、ナスル姫は小さい頃から全然変わってないということだ。

「夕星様の女性恐怖症は、ナスル様が治して差し上げたようなものですわ」

「わたくしたちも、少しは貢献しているでしょうけどね」

笑いあう侍女たちに、朱夏は一人、難しい顔をして考えた。
話には聞いていたが、やはり当時の夕星をよく知る者の話を聞いても、今の夕星からは想像できない。

少なくとも、朱夏には普通に接している。
そんなに酷くなかった、とも言っていたが。

「う~ん、ユウってほんとに、そんな・・・・・・何と言うか、繊細な子供だったの? 今のユウからは、全く想像できないんだけど」

朱夏の言葉に、皆一瞬きょとんとしたが、すぐにどっと笑い出した。

「そうですわね。今の夕星様しかご存じなければ、到底信じられないでしょうね。でも少し前までは、今ほど明るくはなかったですよ。常に影があるというか。そこがまた、魅力だったのですけど」

うふふ、と笑う侍女は、意味ありげに朱夏を眺めた。

「朱夏様が、その影を取り去ったのですね。きっと今の夕星様が、本来の夕星様ですわよ。羨ましいですわ」

「この子、大恋愛したいんですよ。亭主とあっさりくっついたもんだから」

にこにこと言う侍女に、他の侍女が突っ込む。
朱夏は相変わらずぼんやりしていたが、ナスル姫は『大恋愛』に反応した。
やはり朱夏とは、女子力が違う。

「ま。結婚してるのに、そんなこと思うの? 旦那さんと大恋愛したんじゃないの?」

ずいっと乗り出すナスル姫に、侍女たちは秘密をばらすように、声を潜める。
それでいて、皆興味津々といった表情だ。
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