楽園の炎
「わー、待て待て。降参だ。全く、恐ろしいお姫様だな」
両手を挙げてはいるものの、緊張感なく言う憂杏を、しばらく呆然と見つめていた桂枝は、怒りを爆発させそうになったが、葵とナスル姫の前である、ということに気づき、こめかみをひくひくさせながらも、静かに立ち上がった。
「憂杏。何したのよ」
黙っている桂枝のほうが、叱り飛ばされるより随分怖いわ、と思いながら、朱夏は憂杏に声をかけた。
憂杏は悪びれた風もなく、ひょいと植え込みを飛び越えると、すたすたと朱夏たちに近寄ってきた。
そして、葵に臣下の礼を取り、次いでナスル姫にも、深々と頭を下げる。
「先程は、大変失礼致しました。わたくしは、こちらの侍女頭の愚息、憂杏にございます。いろいろな国を旅しております故、各国のくだらぬ話など、沢山仕入れてございます。お暇潰しにはなりましょうから、お気が向きましたら、いつでもお呼び立てください」
流れるような口上と、堂々とした態度からは、卑しさは微塵も感じられない。
こういうところに、生来の生まれの良さが出るのかな、と感心していると、朱夏と同じ感想を持ったのか、ナスル姫が、にっこりと笑って、軽くお辞儀をした。
「まぁ、頼もしい。勇敢でいらっしゃるのね。是非また、お話をお聞きしたいわ。わたくしはククルカン皇帝の第二皇女、ナスルよ。よろしくね、勇敢な旅人さん」
ナスル姫が、憂杏に不快な思いを抱かなかったことで、桂枝の怒りも納まったようだ。
大きくため息をついた桂枝の背中を、朱夏はぽんぽんと叩いた。
両手を挙げてはいるものの、緊張感なく言う憂杏を、しばらく呆然と見つめていた桂枝は、怒りを爆発させそうになったが、葵とナスル姫の前である、ということに気づき、こめかみをひくひくさせながらも、静かに立ち上がった。
「憂杏。何したのよ」
黙っている桂枝のほうが、叱り飛ばされるより随分怖いわ、と思いながら、朱夏は憂杏に声をかけた。
憂杏は悪びれた風もなく、ひょいと植え込みを飛び越えると、すたすたと朱夏たちに近寄ってきた。
そして、葵に臣下の礼を取り、次いでナスル姫にも、深々と頭を下げる。
「先程は、大変失礼致しました。わたくしは、こちらの侍女頭の愚息、憂杏にございます。いろいろな国を旅しております故、各国のくだらぬ話など、沢山仕入れてございます。お暇潰しにはなりましょうから、お気が向きましたら、いつでもお呼び立てください」
流れるような口上と、堂々とした態度からは、卑しさは微塵も感じられない。
こういうところに、生来の生まれの良さが出るのかな、と感心していると、朱夏と同じ感想を持ったのか、ナスル姫が、にっこりと笑って、軽くお辞儀をした。
「まぁ、頼もしい。勇敢でいらっしゃるのね。是非また、お話をお聞きしたいわ。わたくしはククルカン皇帝の第二皇女、ナスルよ。よろしくね、勇敢な旅人さん」
ナスル姫が、憂杏に不快な思いを抱かなかったことで、桂枝の怒りも納まったようだ。
大きくため息をついた桂枝の背中を、朱夏はぽんぽんと叩いた。