楽園の炎
「しかし、よく憂杏があそこにいると、わかりましたね。あそこに隠れるのを、見ていたわけでもないでしょう?」

感心したように言う葵に、ナスル姫は、ふふっと笑った。

「言ったでしょう。わたくし、じゃじゃ馬には慣れているの。隠れるところだって、大体予想できますわ」

侮れん、と唸る憂杏をじろりと睨み、桂枝はあまり長い間憂杏を姫の前に置いておくのは好ましくないと思ったように、葵と姫を促して、去っていった。

「なかなか面白そうな、お姫さんだな」

三人の後ろ姿を見送りながら、憂杏が呟いた。
朱夏はちら、と憂杏を見上げ、口を開いた。

「ところで、何してたのよ? 王宮に来るなんて、珍しいじゃない」

憂杏は、本当の身分は侍女頭の息子なので、そう低くもないのだが、兵士にも属していないし、王宮内に職を持っているわけでもない。
言ってみれば、一介の庶民なので、本来なら王宮には簡単に入れない立場なのだ。

だが母親である桂枝は元々貴族だし、当時すでに大臣であった朱夏の父に仕え、朱夏の乳母でもあったため、憂杏も昔は王宮で育てられていた。
昔から憂杏と葵、朱夏の三人で遊ぶ姿は、王宮内では有名だった。
だから、王宮勤めの大抵の者は、憂杏のことを知っているので、今でも簡単に王宮に入れるのだ。

もっとも憂杏自身が、最近はあまり王宮には寄りつかないのだが。
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