楽園の炎
「ああ、そうそう。これ、渡しに来たんだよ。ほれ」

そう言って憂杏が懐から取り出したのは、朱夏が預けていた短剣だ。
柄の部分に、小さな金具が取り付けられ、鎖に繋がっている。

「わ、ありがとう~。さすがね。金具も綺麗だわ」

首飾りになった短剣を受け取り、朱夏は嬉しそうにはしゃいだ。

「そうだろう。ユウのところにあった金具だからな。思った通り、良い物があった」

さらっと出た名前に、何故か朱夏は、どきりとした。
何故かは本人にもわからないのに、憂杏は目ざとく朱夏の動揺を見抜き、にやりと口角を上げる。

「おい朱夏。あいつ、どうよ。葵とは大分タイプが違うが、ああいう奴も悪くないだろう? 夜這いに来たか? ん?」

「そ、そんなこと、あるわけないでしょっ!」

慌てて否定する朱夏に、憂杏は相変わらずにやにやとしていたが、ふと真顔になると、少し声を落として、他の兵士に聞こえないように囁いた。

「お前、本気で葵以外の男に目を向けたほうがいいぞ。もし葵を好いているのなら、辛くなるだけだ」

いきなり言われたことに、朱夏は固まった。
憂杏の真剣な物言いが、余計に朱夏を不安にさせる。

「どういうこと・・・・・・?」

やっとの思いで唇を動かす。
知りたいような、知りたくないような、複雑な気持ちだ。
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