楽園の炎
アシェンが目を開けたときには、辺りは暗くなっていた。
香炉の小さな火だけが、暖かく室内を照らしている。

船に乗ってからずっと、酔いっぱなしで疲れ果てていたアシェンだが、今はあまり気分も悪くない。

アシェンはゆっくりと起き上がって、傍の香炉に目をやった。
皿の上に置かれた薬草は、小さな火に炙られて、ハーブのような爽やかな香りを放っている。

アシェンは寝台に腰掛け、大きく息を吸い込んだ。
部屋一杯に広がった薬草の香りが、身体に入ってくる。

---大したものだな、この薬草は---

感心しながら、香炉をまじまじと見る。
ふと横を見ると、たらいに、清潔な布も用意されている。
アルが憂杏と出て行ったときには、なかったはずだ。
アシェンが寝ている間に、用意したものらしい。

---結局、無様な姿を見られてしまったのか・・・・・・---

気づかなかったということは、アシェンは昏々と眠りこけていたということだ。
皇太子の側近のくせに、侵入者に気づかなかったことといい、気分が悪くて伸びているところを見られたことといい、情けないことこの上ない。

アシェンは、がっくりと項垂れた。
そんなアシェンの耳に、控えめに扉を叩く音が届いた。

「どうぞ」

低く言うと、扉が開き、アルが顔を出した。
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