楽園の炎
第二十九章
それからしばらくは、順調に船旅が続いた。
アルの匂い袋のお陰で、アシェンも部屋で転がっていなくても大丈夫になったし、他の者も、それぞれ船旅を楽しんでいる。

「さすがに毎日毎日海しか見えないと、飽きてくるわねぇ~」

ナスル姫と甲板にある木の椅子に座って、空を見上げながら、朱夏は呟いた。
初めこそ楽しかったが、来る日も来る日も、見えるものはずっと同じような海原だと、さすがに飽きてくる。

幸い嵐に遭うこともなく、船は順調にククルカンへと向かっているようだ。
最近では、葵は皇太子について、何かいろいろ教えてもらっているようだし、夕星も忙しそうだ。

あたしも何か、教えてもらわないとなぁ、と思いながら、朱夏はぼんやりと海原を眺めた。

「・・・・・・暇そうだなぁ」

言いながら甲板に上がってきたのは、小さな盆を持った憂杏だ。
ナスル姫が、たたた、と走り寄る。

「ほら。ドライフルーツだ」

どん、と憂杏が、盆に盛ったいろいろなドライフルーツを、朱夏の横に置く。
朱夏はマンゴーのドライフルーツを口に放り込み、伸びをした。
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