楽園の炎
その日の夕方から、ぐっと気温が下がり、雨が降ってきた。

「あ~、降ってきたなぁ」

夕星が、船室の窓を覗きながら言う。
何となく船が揺れてる? と思っていたが、憂杏の言ったように、やはり雨が降ってきたようだ。

「明日にはやっと、陸に降りられるってのに。気分が下がるわぁ~」

ぶつぶつ文句を言う夕星に歩み寄り、朱夏も外を覗いた。
雨粒が、窓を叩いている。

「ねぇ。こんな天気で、ほんとに明日には着くの?」

「ああ。ていうか、ほら。向こうのほうに、うっすら陸が見えてるだろ。もう近いんだよ」

夕星が指差すほうを見れば、微かだが陸らしき影が見える。
もっとも注意して見ないと、空も黒いので見落としてしまうだろうが。

「見えてるのに、まだまだかかるの?」

着くのは明日だということだが、うっすらとはいえ見えている距離なら、このまま進めば程なく着くのではないか。
だが夕星は、当たり前のように頷いた。

「見えてても、結構かかるのさ。それに、天気も悪いから、ゆっくり進むしね。外洋よりも浅いから、座礁の危険もあるし」

「明日からの陸路は、どれぐらいあるの? 雨の中進むんでしょ?」

「それがなぁ、ちょっと心配。飛ばせば明日中には着くんだが、何せこの大軍だ。星見の丘までのときのように、ゆっくりだろうし、間で一泊入れるだろうなぁ」

そう言って夕星は、朱夏の肩を抱いた。
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