楽園の炎
アルが出て行ってしまうと、朱夏はしばらく布団の中で丸まっていたが、やがて目だけを出して、きょろきょろと辺りを見回した。

考えてみれば、アルファルドを旅立ってから、一人になるのは初めてだ。
ちょっと心細くなり、朱夏はまた、布団の中に潜り込んだ。

---そういえば、ユウはどこに行ったのかしら。夜になっても来ないなんて、珍しい---

寝るときは必ず、夕星は傍にいた。
船では皆一部屋で寝ていたので、朱夏と一緒に寝ていたのはナスル姫だったが、それ以外の天幕では、常に夕星と一緒に寝ていたのだ。
アルファルドではずっと独り寝だったのに、慣れない土地で独りぼっちにされるのは、かなり寂しい。

---アルに、一緒にいてもらえば良かったかな---

今更呼びに行くのは、恥ずかしいし面倒だ。
軽く後悔していると、部屋の入り口の布が、ゆらりと揺れた。
続いて寝台が、ぎし、と軋む。

「朱夏。・・・・・・寝たのか?」

聞き慣れた低い声に、朱夏は布団の中で、ほっと息をついた。

「起きてるけど・・・・・・」

そのままの姿勢で答える。
夕星の手が、そっと布団にかかり、少しだけめくった。
朱夏は布団から目だけを出し、夕星を見る。

「風邪、引いたのか?」

「ううん。大丈夫」

額に当てられる夕星の手の感触に、目を閉じながら、朱夏は答えた。

「ちょっと、寒すぎるだけ」
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